「防災士ってどんな資格?」「具体的な役割や活躍できる職場が知りたい」という疑問がある方もいるでしょう。防災士とは、災害への備えや対応を学ぶ専門の資格を取得し、防災活動を支えるための知識と技術を習得した人のことです。
防災士は防災に関連した機関・団体に限らず、福祉施設・病院・学校・企業など、幅広い職場で活躍できます。資格取得までの手順は大きく4つに分けられ、各手順でポイントが存在するため、資格取得を検討している方は事前に確認しておきましょう。
本記事では、防災士の資格内容や役割、資格取得の手順について解説します。防災士に興味がある方、または防災士の資格取得を目指している方は、ぜひ本記事を最後までご覧ください。
防災士とはどんな資格?
防災士とは、災害への備えや対応を学ぶ専門の資格を取得し、防災活動を支えるための知識と技術を習得した人のことです。この資格を取得するには、地震や洪水が起きた際の安全な避難方法や、普段からの防災対策の知識などが求められます。
防災士という資格は、2002年に創設されたNPO法人日本防災士機構に認定されています。防災士養成研修と資格取得試験は2003年から始まり、2023年8月末時点で262,166名が取得しています。
防災士の数は日本全国で増加傾向にあり、2023年8月の防災士認証登録者数は1,600人です。なお、防災士における受講資格の制限や有効期限はありません。
防災士の資格で得られる知識
防災士の資格を取得すると、災害時に適切な判断を行えるようになります。なぜなら、防災士の資格取得の過程で、家庭や地域での防災活動を効果的に進めるための知識が得られるためです。
資格取得の過程で得た知識や経験をもとに、地域社会や企業において防災活動のリーダーやアドバイザーとして活躍できます。具体的には、防災士になるまでに以下のような知識が得られます。
- 地震や津波のメカニズム
- 災害発生時に行うべきこと・推奨される避難方法
- 災害対策についての行政の取り組み内容
- 備蓄や住宅の耐震化の知識
- ハザードマップの使い方
災害に対する正しい知識を学ぶことで、非常時でも慌てずに適切な避難や安全確保が行えます。また、防災知識を活かして地域活動を行うことも可能です。
防災士における3つの基本理念
防災士には以下3つの基本理念が存在します。この基本理念は、日本防災士機構の公式サイトでも解説されています。
- 自助
- 共助
- 協働
防災士には、これらの理念に沿った活動が求められます。以下、防災士の基本理念を1つずつ解説します。
理念1.自助
第1の理念である自助とは、自らの安全を自身で守ることを意味します。その理由は、災害時に自身が大けがをしてしまうと、家族や隣人を助けたり、防災士としての活動を続けたりすることができないためです。
防災士として知識や経験を蓄えていても、いざというときに行動できる状態でなければ、その知識や経験を活かすことはできません。自助という理念をもとに、自らの安全を維持することが大切です。
また、防災士としての活動を継続するためにも、常に知識をアップデートする必要があります。防災・減災に関する知識と技能を学び続けることがポイントです。
理念2.共助
共助とは、身近な人同士がお互いに助け合うことを意味します。この共助という理念に従い、災害時に周りの人同士で助け合うことで、被害拡大を防ぐことが可能です。
災害の規模が大きければ大きいほど、警察や消防といった公的な救援活動が機能するまでに時間がかかります。そういった状況で共助が重要視され、防災士は以下のようなシーンでリーターシップを発揮することが求められます。
- 地震によって小規模な火災が発生して消化が必要なとき
- 洪水や津波のような災害で避難誘導が必要なとき
- 避難所を開設する必要があるとき
災害時に適切な判断を下せる防災士がいれば、災害が起こった直後の混乱による2次被害を抑えることが可能です。防災士は地域の災害対策リーダーとしての役割を果たします。
理念3.協働
協働とは、市民、企業、自治体、防災機関などが協力して活動することを指します。いざというときの被害を減らすため、日頃から組織同士の密接な連携が大切です。
防災士が行政や防災機関、団体、NPOなどと関わりを持つことで、災害発生時に各機関が被災地の救援・支援をしやすくなります。つまり、防災士は市民・企業と行政・防災機関との中継役として活躍するのです。
日本防災士機構の公式サイトでは、協働について「お互いに顔の見える関係をつくり上げ、『災害に強いまちづくり』をすすめます」と記載されています。このことからも、市民・企業と各機関が連携を取ることで、結果として災害に強いまちづくりにつながることがわかります。
防災士が活躍できる職場・求められる役割
防災士と聞くと、「自治体の防災部門や教育機関での仕事」と想像される方が多いと思います。しかし、防災士は防災に関連した機関・団体に限らず、幅広い職場で業務をこなすことができます。
防災士に認定されたからといって、特別な義務が発生するわけでもなく、特別な権限が与えられるわけでもありません。例えば、以下のような一般的な職場で活躍することが可能です。
- 福祉施設:避難計画の策定や職員への防災研修
- 病院:患者向けの避難手順の策定や防災訓練の実施
- 学校:生徒や教職員向けの防災教育や訓練の実施
- 企業:防災担当として従業員向けの防災研修や災害時の対応手順の策定
防災士は災害発生時の対応策を考えるだけでなく、日常的に防災意識を高める活動も行います。なお、介護施設では年に2回の避難訓練が義務付けられています。その際、防災士の資格を取得していれば、より具体的かつ効果的な訓練を指導できるようになるでしょう。
防災士に求められる役割
防災士に求められる役割は多岐にわたります。具体的には、以下のような役割が挙げられます。
- 災害時に公的支援が到着するまでの被害の拡大を軽減する
- 災害発生後に被災者支援の活動を行う
- 平常時に防災意識の啓発や自助・共助活動の訓練を行う
災害が発生した際、自分自身の安全を守り、その上で住民のリーダーとなることが期待されます。防災士の知識と経験を活用し、地域の人々の自助・共助活動をサポートします。
また、公的支援が到着するまでの間、被害の拡大を軽減するための取り組みも役割の1つです。例えば、一時避難所の運営をサポートする、瓦礫撤去といったボランティア活動を行うなどが含まれます。
さらに平常時には、防災意識の啓発や訓練の実施をリードする役割が求められます。災害時の被害を少しでも減らすためにも、平常時の活動が重要となります。
防災士研修講座とは?研修の概要
防災士になるには、防災士研修講座を受講する必要があります。この研修は、防災や災害対応の専門家を講師として会場に集合する形式で行われます。
その際、防災士教本に示す21講目のうち最低12講目以上を履修します。したがって、防災士研修講座を修了するためには、最低でも2日間以上の日数が必要です。
防災士研修講座の項目 | 内容 |
第1章 災害発生のしくみ | ・第1講 地震・津波による災害 ・第2講 気象災害・風水害 ・第3講 土砂災害 ・第4講 火山災害 ・第5講 広域・大規模火災 ・補講1 近年の主な自然災害と新型コロナウイルス感染症 |
第2章 災害に関する情報 | ・第6講 災害関連情報と予報・警報 ・第7講 被害想定・ハザードマップと避難 ・第8講 災害情報の活用と発信 |
第3章 公的機関や企業等の災害対策 | ・第9講 行政の災害対策と危機管理 ・第10講 行政の災害救助・応急対策 ・第11講 復旧・復興と被災者支援 ・第12講 災害医療とこころのケア ・第13講 ライフライン・交通インフラの確保 ・第14講 企業・団体の事業継続 |
第4章 自助 | ・第15講 地震・津波への備え ・補講2 耐震診断と補強 ・第16講 風水害・土砂災害等への備え ・補講3 災害と損害保険 |
第5章 共助 | ・第17講 自主防災活動と地区防災計画 ・第18講 避難所の設置と運営協力 ・第19講 地域防災と多様性への配慮 ・第20講 災害ボランティア活動 |
第6章 防災士制度 | ・第21講 防災士に期待される活動 ・補講4 防災士が行う各種訓練 |
そのほか、防災士研修講座の研修場所や料金、申込方法などの詳細は以下の通りです。防災士研修講座を受ける前にご確認ください。
研修実施回数 | 年間80回程度 |
研修場所 | 地方自治体や大学、民間法人など、全119箇所(2023年9月時点) |
料金 | 防災士資格取得までの費用総額(防災士研修センターで受講した場合):63,800円 ※2023年6月1日以降開催のコースから適用 【料金の内訳】 ・研修講座受講料:50,728円 ・資格取得試験受験料:3,000円 ・資格認証登録料:5,000円 ・消費税:5,072円 |
申込方法 | ・防災士研修センターから申込する ・日本防災士機構の「防災士養成研修実施機関一覧(2023年度予定)」から各研修機関へ問い合わせる |
助成制度 | 防災士資格取得費用・防災士教本代・受験料・認証手続料について、一定条件のもとに費用の一部または全額を助成している自治体がある参考:自治体による資格取得への助成 |
防災士の資格取得までの手順
防災士資格を取得する方法は、「一般的な方法」と「特例制度」の2種類があります。特例制度とは、消防や警察の現職及びOBなどの方が、少ない手順で防災士資格を取得できる制度のことです。
特例制度の詳細については、日本防災士機構の「特例各種ご案内」をご確認ください。本項では、一般的な方法を以下の手順で解説します。
- 「研修履修証明」を取得する
- 「防災士資格取得試験」に合格する
- 「救急救命講習」を受けて修了証を取得する
- 「防災士認証登録申請」を行う
各手順をそれぞれ順番に見ていきましょう。
手順1.「研修履修証明」を取得する
防災士の資格取得のために、まずは「研修履修証明」を取得します。日本防災士機構が認証した研修機関が実施する「防災士養成研修講座」を受講することで、「研修履修証明」を取得できます。
「防災士養成研修講座」では、21講目のカリキュラムの中から最低12講目以上を履修する必要があり、最低でも2日間以上の日数が必要です。また、研修は集合会場にて行われます。
集合研修で履修しなかった講目については、各研修機関が定めた様式のレポートなどの提出が義務付けられています。
手順2.「防災士資格取得試験」に合格する
「研修履修証明」を取得したら、日本防災士機構が実施する「防災士資格取得試験」に合格する必要があります。この試験は、集合研修の最終日に同じ会場で行われます。
試験問題は3択式で30問出題され、合格するためには80%以上の正答が必要です。つまり、30問中24問以上の正答で合格となります。
受験資格は、手順1の「研修履修証明」を取得していることです。受験料として3,000円かかります。なお、もしも不合格になったとしても、後日別の会場で再受験することが可能です。
手順3.「救急救命講習」を受けて修了証を取得する
「防災士資格取得試験」に合格したあとは、「救急救命講習」を受け、その修了証を取得します。この「救急救命講習」は、心肺蘇生法やAEDを含む3時間以上の内容が対象です。
全国の自治体、地域消防署、日本赤十字社などの公的機関、またはそれに準ずる団体が主催しています。日本防災士機構が認めている講習については、「日本防災士機構が防災士認証要件として認めている主な救急救命講習等一覧」をご確認ください。
有効期限については、防災士の認証登録申請時に5年以内に発行されたものであり、なおかつ、その講習の発行者が定めた有効期限内のものが対象です。なお、看護師といった人命救助の知識がある仕事についていたとしても、この修了証が必要となります。
手順4.「防災士認証登録申請」を行う
ここまでの手順1~3を終えたら、日本防災士機構に対して「防災士認証登録申請」を行います。申請料は5,000円かかります。
申請時には前記3項目を修了したことが確認され、「防災士認証登録申請」を適正に提出していた場合、「防災士認証状」「防災士証(カード)」が日本防災士機構から交付されます。
まとめ
本記事では、防災士の資格内容や役割、資格取得の手順について解説しました。
防災士の資格を持つことで、災害時に適切な対処を行い、自身や周囲の安全を確保できるようになります。また、防災の備えや避難経路の策定といった、被害を減らす活動にも貢献できます。
「災害時に大切な家族を守りたい」「防災士として活躍したい」という方は、ぜひ防災士の資格取得を目指してみてください。防災士のさらなる詳細については、日本防災士機構の「防災士とは」で解説されています。
なお、防災関連の資格は防災士だけでなく、救急救命士・防災管理者・防火管理者・防災危機管理者などもあります。防災関連の資格に興味がある方は、そちらも一緒にご確認ください。